日本政府は昨日12月10日、国際的なサプライチェーンの多様化を加速させるための新たな巨額支援策を閣議決定した。米中対立の激化と新型コロナウイルス禍が露呈した世界的なサプライチェーンの脆弱性への対応を目的とし、半導体や重要鉱物、次世代バッテリーといった戦略物資の供給網をめぐる対中依存を決定的に低減させる構えだ。政府は補助金や税制優遇措置を大幅に拡充し、企業の国内回帰や友好国・地域への拠点移転を強力に後押しする。これは、経済安全保障を国家戦略の根幹と位置付け、産業構造と地政学的リスク対応の双方を根本から見直す、極めて重要な政策転換である。
背景:米中覇権争いとパンデミックが露呈した脆弱性
今回の政策転換の背景には、過去数年にわたり世界を揺るがした複数の危機がある。2020年からの新型コロナウイルス感染症パンデミックは、世界の物流を寸断し、医療品や電子部品などの供給不足を引き起こした。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギーや食料の安定供給が地政学的リスクに晒される現実を突きつけた。こうした中で、特に深刻な影響を及ぼしているのが、米国と中国の技術覇権争いの激化である。半導体やAI、量子技術といった先端技術分野における中国の台頭に対し、米国は輸出規制や投資制限を強化。これに伴い、多くの国々が自国の経済安全保障体制の再構築を迫られている。日本も例外ではなく、特定の国への過度な依存が国家の安全保障を脅かすとの認識が深まり、昨年施行された経済安全保障推進法に基づく対応を一段と強化する必要に迫られていた。
新支援策の狙いと具体的な内容
政府が今回発表した新支援策は、主に戦略的自律性を確保すべき重要物資のサプライチェーンを対象とする。具体的には、高性能半導体の国内製造基盤強化、電気自動車(EV)用バッテリーの国産化推進、レアアースなどの重要鉱物の確保、医薬品・医療機器の安定供給体制構築などが柱となる。これらの分野で、国内に新たな工場を建設する企業や、中国以外のASEAN諸国、インド、米国、欧州などの友好国・地域へ生産拠点を移転・新設する企業に対し、大規模な補助金と税制優遇措置を講じる。政府は、新年度予算案に数兆円規模の関連費用を計上する方針であり、これは従来の経済安保推進法に基づく支援を大幅に上回る規模だ。特に半導体分野では、熊本に誘致したTSMC工場に続く第二、第三の大型投資を呼び込むことで、日本の産業競争力の回復と技術的優位性の確保を目指す。
日本経済と国際秩序への影響
この新支援策は、日本企業の投資戦略に抜本的な転換を促すだろう。経済合理性のみを追求してきた従来のグローバル分業体制から、サプライチェーンの強靭性(レジリエンス)を最優先する新たな枠組みへの移行が不可避となる。短期的には、国内回帰や生産拠点の移転に伴うコスト増が懸念されるものの、長期的には安定供給の確保が企業の競争力維持に不可欠との認識が広がる。国際的には、日本がG7の一員として、欧米諸国と足並みを揃え、中国への経済的な依存度を低下させる姿勢を明確にしたことで、グローバルな「デ・リスキング(脱リスク化)」の流れがさらに加速する可能性が高い。特に、ASEAN諸国やインド太平洋地域の新興国は、新たな生産拠点として注目され、投資誘致の好機を迎えることになるだろう。これは単なる経済政策にとどまらず、新たな国際通商秩序の形成にも大きな影響を与えることになる。
編集後記
今回の日本政府の決定は、国際情勢の激変の中で、国家の経済安全保障を自らの手で築き上げるという強い意志の表れである。しかし、この道程は決して平坦ではない。巨額の財政負担はもちろん、サプライチェーン再編に伴うコスト増をいかに吸収し、国際競争力を維持していくかが問われる。また、中国側からの報復措置のリスクも常に付きまとうだろう。日本は、友好国との緊密な連携を深めつつ、強靭で持続可能なサプライチェーンを構築する必要がある。この「新たな冷戦」とも称される時代において、経済安保は外交・防衛と並ぶ国家戦略の三本柱として、その重要性を一層増していくことは間違いない。我々は、この歴史的転換点の行く末を、冷静かつ鋭い視点で注視し続ける。


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